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東京地方裁判所 平成10年(ワ)21272号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 関澤潤

同 村島俊宏

同 林賢治

被告 東京生命保険相互会社

右代表者代表取締役 中村健一

右訴訟代理人弁護士 加藤一昶

同 小倉良弘

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金九五〇万円及びこれに対する平成一〇年九月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、平成一〇年九月から原告が死亡するまで毎月二五日限り金一九〇万円を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の取締役を務めていた原告が、これを退任した後、役員年金の支給に関する被告の内規により算定された定額の金員の支払を受けてきたところ、被告において一方的に右役員年金を減額したことから、右減額の措置は効力を生じないとして、被告に対し、年金支給合意に基づき、右減額により受給しなかった差額分及びこれに対する遅延損害金並びに将来の差額分の支払を求める事案である。

一  争いのない事実

1  当事者

(一) 被告は、生命保険業等を目的とする相互会社であり、社員総会に代わるべき機関として総代会を設置している。

(二) 原告は、昭和一一年四月に被告に雇用され、従業員として勤務した後、昭和三二年一月に被告の取締役、昭和四四年五月に代表取締役、昭和五二年六月に代表取締役社長、昭和六一年八月に代表取締役会長にそれぞれ就任し、平成六年七月に取締役を退任した者である。

2  被告の役員年金規定等

被告には、遅くとも昭和五三年九月以降、取締役会が定めた「役員退任慰労金および年金に関する内規」(以下「退任慰労金等支給内規」という。)があり、その中で退任役員に対して年金を支給する役員年金制度についての規定を設けていたが、原告が退任した平成六年七月当時の規定(以下、この当時のものを「本件内規」という。)においては、別紙記載のとおり定められていた。

3  総代会の決議

被告は、平成六年七月五日、総代会を開催し、原告の取締役退任に伴い、「原告の在任中の功労に報いるため、当社所定の基準により退任慰労金を贈呈する。その金額、時期及び方法の決定は取締役会に一任する。」との決議(以下「本件決議」という。)をした。

そこで、被告は、同日、取締役会を開催し、本件内規に基づいて退任慰労金基本額を算定した上、功労金八二八万円を加算することとし、以上の総額八億六二一八万円の退任慰労金を原告に支払った。

4  原告の年金額

原告は、前記1(二)のとおり従業員在職期間を通算して満五八年三か月間勤務して取締役を退任したので、役員年金受給資格を有しており、本件内規によって算定すると、その年金月額は二七〇万円となる。

5  被告の役員年金支給と減額

(一) 被告は、遅くとも昭和五三年九月ころに退任慰労金等支給内規が定められたことにより、原告との間で、右内規に規定された要件を満たしたときにその定める基準に基づき算出される金額の役員年金を支給する旨の合意(以下「本件年金支給合意」という。)をし、原告の取締役退任の月の翌月である平成六年八月から平成一〇年三月まで、原告の役員年金(以下「本件年金」という。)として月額二七〇万円を支払った。

(二) 被告は、平成九年三月一七日開催の取締役会において、本件内規のうち役員年金の支給基準に関する七条を改定するとともに、新たにその最高限度を月額八〇万円とする旨の規定を設け(いずれも同年四月一日施行)、原告に対して、改定後の内規に副って本件年金を減額することを要請したが、原告はこれに応じなかった。

(三) その後、被告は、平成一〇年四月二〇日開催の取締役会において、退任慰労金等支給内規のうち七条を改定し、役員年金の最低保障額を一二万円とする旨の規定を設けるとともに、その付則において、役員年金の最高限度及び最低保障額の定めを同年三月三一日以前に支給が決定された者にも適用することとした上、本件年金を同月分から八〇万円に減額する旨決議し、以後これに従い本件年金として毎月八〇万円を原告に支払っている。

二  争点

本件年金の減額措置の有効性を巡る次の二点である。

1  本件年金の性質は、役員報酬であるか、生活保障給であるか。また、生活保障の趣旨を含む支給であるとした場合、その範囲を超える額の支給を定める本件年金支給合意は、必要な総代会の決議を経ていないものとして一部無効となるか否か。

2  被告は本件内規一三条に基づき本件年金を減額することができるか否か。

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(一) 被告

(1)  役員年金は、退任慰労金等支給内規において、退任慰労金と区別して支給条件が定められているばかりでなく、これを支給するについても退任慰労金と異なり総代会の決議を要しないものとされていること、退任慰労金と異なり恩恵的性質を有し、支給について総代会の決議を要しない顧問料制度に由来すること、その原資は退任慰労金ではないこと、終身支給であって定額でないこと、遺族に対する年金支給規定があること、支給打切規定があること、従業員が役員になった場合、従業員としての退職金は支給されるが年金は支払われず、従業員在職期間と役員在任期間とを通算して満二〇年以上勤務して役員を退任したときに役員年金が支給されるものとされていること、計算書類の附属明細書及び大蔵省や金融監督庁の指導に基づいて提出する事業費明細表において役員報酬としての扱いを受けていないことなどから、職務執行の対価たる性質を有する退任慰労金ではなく、生活保障を目的として支給されるものである。したがって、役員年金は、平成七年法律第一〇五号による改正前の保険業法(以下「保険業法」という。)六〇条の準用する商法二六九条の定める「報酬」に当たらず、生活保障のために相当な額であれば、総代会の決議なしに役員年金を退任役員に支給できるというべきである。

(2)  右相当額は、生活保障の観点から、原告が被告に従業員及び取締役として在職していたときの地位、収入等を考慮した上、これにふさわしい社会生活を維持するに足りる額と解すべきであるところ、被告は、既に退任慰労金として八億六二一八万円を受け取り、在任中の功績を十分に評価されていること、現職の役員の報酬及び同業他社における退任慰労金との均衡等から、毎月八〇万円をもって年金としての性質からみた上限の金額と解すべきである。

(3)  なお、被告の総代会が原告の退任に伴う金額の支給に関して行った本件決議は、役員年金に関するものではなく、一時払の退任慰労金に関するものである。

(4)  以上によれば、本件年金のうち八〇万円を超える部分は、「報酬」に該当するから、総代会の決議が必要であり、原告との間の本件年金支給合意のうち右超過部分は無効であり、被告は、原告に対し、本件年金として毎月八〇万円を支払う義務を負うにとどまる。

(二) 原告

(1)  役員年金は、職務執行の対価の性質を有する退任慰労金と同様に退任慰労金等支給内規に定められ、その額は退任時の報酬、退任時の地位、常勤役員通算在任年数等により決定され、顕著な功労があったときは三〇パーセントの範囲で増額されることがあるなど、原告の職務遂行に関連する要素により算定されるから、役員在任中の職務執行の対価、すなわち、退任慰労金の一種であり、被告の社内においてもそのような認識が一般的であった。

(2)  また、算定方法が退任慰労金と異なること、総額が確定していないこと、遺族に対して支払われることもあること、役員就任時に従業員としての年金が精算されないこと、支給打切規定があることなどは役員年金が退任慰労金としての性質を有することと矛盾しない。被告は、計算書類の附属明細書等において本件年金が役員報酬として取り扱われていないことをもって退任慰労金の性質を持たないことの根拠とするが、本末転倒の議論である。

なお、役員年金が顧問料制度に由来するものであるとしても、顧問料は顧問の職務執行の対価であって生活保障を目的とするものでないばかりか、退任慰労金等支給内規が制定されるに当たり退任慰労金とともに算定基準が検討されたことなどにより職務執行の対価性を有するものに変容したのであるから、総代会の決議の対象とならないということはできない。

(3)  さらに、本件年金が生活保障のためのものであり、そのうち八〇万円を超える部分が無効であるとすると、被告は原告に対して本件年金の一部を根拠なく支給していたという不合理な結果を招来することになる。

(4)  以上のとおり、役員年金は退任慰労金として報酬の性質を有するから、その決定には総代会の決議が必要であり、本件決議ないしこれにより一任を受けた取締会の決議により、右要件は充足されているので、原告は、被告に対し、死亡するまで、毎月二五日限り本件内規に基づいて算定された二七〇万円の支払を受けることができる本件年金請求権を取得した。したがって、被告が、原告の同意を得ることなく、一方的に取締役会において役員年金を減額することは許されない。

なお、本件年金が生活保障をその趣旨とし、これを支給するために総代会の決議が必要ないとしても、その支給額の上限を八〇万円とする合理的な根拠はなく、原告が従前どおり役員としての生活水準を維持するのに必要な額としては二七〇万円という額も不合理ではないから、本件年金支給合意のうち八〇万円を超える部分について一部無効ということはできず、全体が有効である。

2  争点2について

(一) 被告

(1)  仮に本件年金が退任慰労金の一種として「報酬」に当たり、本件決議を経たことによって本件年金支給合意が有効であるとしても、本件内規一三条に基づく取締役会決議により原告の役員年金請求権は月額二七〇万円から八〇万円に減額された。

(2)  すなわち、従業員の退職年金支給打切事由については、内勤従業員退職慰労金規定により、「在職中会社に不利益な行為があった事が発見されたとき、退職後会社に損害を及ぼしたとき、又は会社の諒解なく同業他社の募集業務に従事したとき」と具体的に定められているのに対し、役員年金の支給打切事由については、本件内規一三条に明記されていないから、その事由は従業員のそれよりも広く、会社の経営状態の悪化等も含まれると解すべきである。

そして、平成二年にいわゆるバブル経済が崩壊して、不動産及び株価が急落するなど、戦後の日本経済が体験したことのない未曾有の環境変化の中、生命保険業界においても、保有する株式及び不動産の価格の低下による含み益の減少、長期国債利回り、長期プライムレート等の市中金利の低下、不良債権の増加などの事情により生命保険会社の経営状態は悪化し、保険料を引き上げざるを得なくなるとともに、平成九年には経営破綻に陥る生命保険会社が出現したため、保険契約者の生命保険会社に対する監視の目が厳しくなり、個人の新規加入者が減少し、既存の生命保険契約の解約が増加したのであるが、このような事情は被告においても例外ではない。

これに対し、被告は、保険契約の減少阻止に取り組むとともに、内勤従業員及び営業従業員の解雇、支社の統廃合、従業員給与等の削減、役員報酬等の削減による事業費の削減、生命保険契約の転換の勧誘、自己資本及び責任準備金の充実等の対応策を採り、その一環として、平成九年に退任役員年金額の上限を月額八〇万円にする旨本件内規を改正するとともに、現職の常勤取締役の最低報酬が月額八五万円であること、非役員部長の最高賃金が月額約七三万円であることを考慮した上、改定後の本件内規に沿って、原告に対し役員年金の減額の交渉をしたが、原告の納得を得られず、平成一〇年四月、退任慰労金等支給内規をさらに改定するとともに、本件年金を月額八〇万円に減額したのである。

(3)  以上のとおり、被告の経営状態の悪化により、原告に対して現職役員の報酬よりも高額な月額二七〇万円の終身年金を継続して支給することを許す状況になく、このような状況は、本件内規一三条の「特別事情」に該当し、被告は、原告に対し、役員年金の一部を打ち切ることができる。

(二) 原告

(1)  本件内規一三条の定める「特別の事情」の意義については、総代会で定められた役員年金額についての不利益変更が取締役会の広範な裁量に委ねられるのは妥当でなく、同条が年金受給資格に触れていることから、受給者の属人的事情を示すと解され、被告従業員の年金打切事由と同様に、役員の在任当時の不正が事後的に発覚した場合、退職後の被告に対する敵対行為等、職務執行の対価を本件内規のとおり支給することが不当とされるような事情が客観的に認められる場合を指していると解すべきである。仮に、経営状態ないしその悪化による年金額の減額を意図していたのであれば、本件内規にその旨定めておくのが当然であるのにその定めがないばかりか、同条は、支給打切り又は停止を定めるのみで減額について何ら規定していないから、経営状態の悪化等の属人的要素を離れた事情を根拠に減額することはできない。

(2)  そうすると、被告の主張する事情は、本件内規一三条所定の「特別の事情」に該当しないから、役員年金を減額することはできない。

(3)  仮に、一般論として経営状態ないし経済状況の変化が「特別の事情」に該当するとしても、平成一〇年の退職慰労金等支給内規改正により役員年金の受給が減額される者は原告一人であり、かえって受給者のうち六名の受給額が増額されるのであるから、右内規改正の趣旨に副った本件年金減額措置と被告の経営状態とに関連性はなく、その他被告において減額の必要性が認められるような特別の事情は存在しない。

なお、被告の現役役員の報酬減額は、現在の業績の反映であり、将来の業績好転により回復又は増額することがあり得るのに対し、本件年金は過去の職務執行の対価であり、恒久的な減額であることから、現役役員の報酬減額をもって、被告の本件年金減額を正当化することはできない。

第三当裁判所の判断

一  役員年金の性質

1  役員年金は、本件内規によれば、常勤役員が従業員であった期間も含めて二〇年以上在職した場合に支給され、その額は、退任時の報酬額、常勤役員として在任した期間、退任時の地位等に対応して金額が定まる退任慰労金の額又は退任時の報酬月額によって決せられる上、会社に対する功労に応じて三割増額できるものとされており、その受給資格及び金額の多寡を決定する要素として会社に対する功労の有無及び程度が考慮されているのであるから、功労報償給としての性質をかなり強く有しているものと考えられる。そして、会社に対する功労は、職務遂行の過程における顕著な功績に対する評価を基礎としているから、役員年金は在任中の職務執行の対価としての性質を具有していると解することができる。

2  ところが、他方、本件内規によれば、役員年金は、退任役員が満五八歳から死亡するまで支給されるものとされているところ、死亡年齢には個人差があり、したがって、支給期間は個別の退任役員ごとに異なることとならざるを得ない。この支給期間の長短は、在任中の功績とは何ら関係のない事柄であるから、役員年金を退任慰労金と同一視することは当を得ないものというべきである。そして、役員年金は、右のように支給期間が不定であるため総額があらかじめ定まっていないことに加え、本件内規には遣族に対する支給も定められていること、定額の退任慰労金とは別に支給されるものであり、その年齢に照らし社会通念上再就職が困難となり、生活するに十分な収入が得られなくなる可能性がある期間を主たる対象として支給することにしたものと窺われることをも併せ考慮すると、退任役員の生活保障給としての性質をも併有していることは否定できないものというべきである。

3  以上のとおり、役員年金の性質を解することは困難であるが、生活保障給としての範囲を超える部分については、その反面、職務執行の対価としての性質を有することになるから、保険業法条六〇条によって準用される商法二六九条所定の「報酬」に該当し、社員総会に代えて総代会の設置されている被告においては、その支給に総代会の決議を要するというべきである。そして、このように解することは、保険業法が商法を準用して役員に対して支払われる報酬について社員総会の決議を要するものとした趣旨が役員に対して支払われる報酬のお手盛りを防止することにあることにも整合すると解される。

4  ところで、証拠(乙第一三号証の一、二、第一四号証の一、二、第一五、第一六号証、第一八号証)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、昭和四八年五月当時、退任慰労金に関する計算基準のほか、顧問を委嘱した退任役員に対して顧問料を支払うという顧問料制度を設け、その算定基準を定めていたが、昭和五二年六月に退任慰労金に関する計算基準を改定するとともに、右顧問料制度に代えて、退任した常勤役員のうち役員在任一〇年以上の者に退任年金を支払うという役員年金制度を設けて顧問料に関する計算基準と類似した役員年金に関する計算基準を定め、昭和五三年九月ころ、役員年金に関する計算準則を退任慰労金に関する計算準則とともに退任慰労金等支給内規にまとめたことが認められる。

右の退任慰労金等支給内規制定の経緯に徴すれば、右顧問料制度と役員年金制度は、制度としての連続性があるとみることができる。

しかしながら、顧問料は実際に顧問に就任した役員に対して支払われるものであるのに対し、役員年金は顧問であるかどうかに関わらず支払われるものであるから、制度としての連続性があるからといって、直ちに両者の性質を同視することはできず、仮に総代会の決議を得ることなく顧問料が支払われていたとしても、役員年金の支給に総代会の決議が不要であると解する理由にはならないというべきである。

二  役員年金支給決議の存否

1  そこで、次に、平成六年七月五日開催の総代会において、役員年金の支給を承認する旨の決議がされたか否かについて検討する。

ところで、総代会において役員年金の支給決議をする場合、役員年金の金額などの決定をすべて無条件に取締役会に一任することは許されないが、明示的又は黙示的にその支給に関する基準を示し、具体的な金額、支払期日、支払方法などは右基準によるべきものとして、その決定を取締役会に任せることは許されると解すべきである(最高裁昭和四八年一一月二六日第二小法廷判決・判例時報七二二号九四頁参照)。

本件決議は、形式的にその文言だけをみると、被告所定の基準により退任慰労金を支給することを承認するものであって、役員年金について明示的には定めていないが、実質的には右の退任慰労金の概念の中に役員年金も含まれると解することができれば、役員年金の支給が総代会の決議に基づくものであるということができる。

しかしながら、前判示のとおり、退任慰労金と役員年金とはその性質を一部異にし、両者を全く同一視することはできないばかりでなく、退任役員に対する支給制度の仕組みに照らして考察すれば、本件内規においては、退任慰労金と役員年金とは特に項を分けて規定されている上、前者については総代会の承認を得て支給される旨明確に定められているのに対し、後者は退任により当然支給されるものとされているなど、相当の違いがあり、役員年金が退任慰労金の一部である非定額部分の支給方法として定められていると理解することは困難である。そうすると、本件決議にいう「退任慰労金」は右内規に役員年金とは別のものとして定められた退任慰労金を指し、「所定の基準」とは本件内規のうち退任慰労金の項に定められた基準を指すと解するほかない。

2  この点に関し、原告は、その陳述書(甲第四号証)において、従前から役員年金は退任慰労金の一部であって、本件決議は被告が役員年金を含む退任慰労金を支払うことを取締役会に一任したものである旨供述する。

しかしながら、前判示のとおり、役員年金はその沿革上退任慰労金とは別の顧問料制度に由来する上、本件内規には退任慰労金と役員年金が別個に項を分けて定められているばかりでなく、証拠(乙第七号証、第八号証の一ないし四、第九号証)によれば、平成六年度の被告の付属明細書には退任慰労金が取締役及び監査役の報酬として記載されているのに対し、役員年金は報酬の中に含まれておらず、大蔵省に提出された平成六年度の事業費明細表においては、退任慰労金は役員退職金として記載されているのに、本件年金は職員定例給与として記載されていることが認められるから、被告において退任慰労金が役員年金を同一の性質を有するものとして取り扱われていたとみることは困難であり、役員年金が退任慰労金の一部であることを前提とする原告の右供述を採用することはできない。

他に、本件年金の支給が本件決議の対象となっていることを認めるに足りる証拠はない。

3  以上のとおり、本件年金のうち報酬としての性質を有する部分については、総代会の決議が必要であるにもかかわらず、これがされていないのであるから、本件年金支給合意は、少なくとも生活保障給としての範囲を超える部分が無効であるといわざるを得ない。

4  そして、平成二年のいわゆるバブル経済崩壊後、右総代会決議当時までの経済情勢及び国民一般の生活程度に加え、証拠(乙第一号証)によれば、原告は退任時において月額四一四万円の報酬を得ていたことが認められ、その後の生活維持のためには相応の経済的負担を伴うことを十分考慮しても、なお、その生活保障の金額としては多くとも月額八〇万円を超えるものではないというべきである。そうすると、本件年金支給合意のうち八〇万円を超える部分は無効であるから、原告は、被告に対し、月額八〇万円を超えて役員年金の支給を求める権利を有しないので、本訴請求は理由がないことに帰する。

三  結論

よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 齋藤隆 裁判官 内堀宏達 裁判官 小川嘉基)

別紙<省略>

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